INTERVIEW

ファンの悲しみを減らしたい。――monopo 宮川とDONGURI 永井が語る、“好き”を仕事にする流儀。

INTERVIEW

さまざまな業界で活躍するゲストを招き、「働き方」についてのお話を伺う対談企画。

プロフェッショナルとして働く上で大切にしていること、心に残っている仕事、そして今後叶えていきたいこと……。対話を通じて語られる「これからの働き方」とは、いったいどのようなものでしょうか?

今回はクリエイティブエージェンシー「monopo」で活躍しているクリエイティブディレクターの宮川涼さんを迎え、DONGURIでWebデザイナーとして働く永井大輔がお話を伺いました。

※この対談は2020年3月19日に実施したものです。


「好きなことを仕事にするためには、まず言葉にすること」

2年ほど前、DONGURIの社内勉強会に招かれた宮川さんは、開口一番こう語りました。これまで、音楽やアイドルといった個人的に好きなジャンルの仕事を手掛けていた宮川さん。その経験から出たそんな言葉は、永井に大きな影響を与えました。アニメ・ゲームといったジャンルが好きな永井は、宮川さんの話を聞いた直後から、自分のポートフォリオを作成し、さまざまな企業に送付。その結果、アニメ・ゲーム系の仕事を数多く手掛けるようになったのです。

ビールを片手に始まった対談は、ふたりの仕事に対する熱い想いを語るものとなりました。

エンタメに見出したデジタルの可能性

宮川いやー、外が暑かったからビールが美味いね。

永井早速開けちゃってますね(笑)。

宮川今日の仕事は片付けてきたから大丈夫!

monopo 宮川涼さん

永井宮川さんは「好きなことを仕事にする」という意識のもとに、アイドルやアーティストなどエンタメ系の仕事を積極的にしていますよね。今日は、そんな宮川さんの仕事についてお話を伺わせていただこうと思います。

宮川6年前にmonopoに入って、2年くらいは普通に企業のWebサイトやアプリなどをつくっていました。けど、そんな仕事をずっとやっていると、だんだんと自分のできることの範囲内で収まってしまうようになるし、Webを作ってもクライアントが喜ぶだけで一般のユーザーにまで届いている実感が感じられなくなってきた。だんだんと、仕事に飽きがくるようになってきたんです。
ちょうどその頃、安室奈美恵や、FACTといったアーティストによるインタラクティブなミュージックビデオを使ったプロモーションが盛り上がっていた。そんなコンテンツを見ていると、このようなコンテンツこそがデジタルクラフトの魅力を発揮できるものなんじゃないかと思ったんです。そこで、それまで手掛けていたBtoBの案件から、広告、プロモーション、音楽といった、エンターテインメント方面に興味がシフトしていきました。

永井個人的にもエンタメ系が好きだったんですか?

宮川うん。もともと、大学時代にはファッション系のフリーペーパーを発行していて、タレントを表紙にしたりミュージシャンのインタビューを掲載したりしていました。昔からミーハーだしエンタメの世界は好きだったんです。そこで、いろいろな人に「エンタメや広告系の仕事がしたい」と言いはじめたのが4年くらい前。すると、少しずつ仕事がもらえるようになってきて、実績やコネクションが積み上がっていった。2018年頃からは、エンタメ系の仕事ばかりをやるようになりましたね。
エンタメ系として一発目の仕事となったのが、篠崎愛さんのシングル『口の悪い女』のキャンペーンとしてつくった通話連動型ミュージックビデオ(以下、MV)「URA SHINOZAKI-ほんとうの愛を、知っていますか?」。これは、スマホとPCに連動させることによって篠崎愛から擬似的に電話がかかってきて、MVの裏話を聴きながら一緒に観れるという仕掛けでした。このキャンペーンがファンに受け入れられ、広告・デジタル業界でも話題になったことによって、次の仕事へとつながっていったんです。

URA SHINOZAKI-ほんとうの愛を、知っていますか?

永井篠崎愛さんは好きだったんですか?

宮川全ての男性が好きでしょう!

永井(笑)

宮川篠崎愛の場合、僕が携わる一個前に別のチームが行っていたキャンペーンがとても秀逸だったんですよ。グラビアアイドルとして活躍していた彼女が歌手としてメジャーデビューをするにあたって行われたこの施策は、アイドルとしてMVを見るか、歌手として歌を聞くかの2択をユーザーに突きつけるため、スマホを表にすれば音無しでMVが見れるけれども、裏にすればMVが見れない代わりに歌が聞けるというコンテンツ。テクノロジー的には、ジャイロセンサーを使って裏か表かを識別するだけのとてもシンプルな仕掛けだけど、それによって、篠崎愛という人物のコンテクストを回収した。これはすごいと思いました。
そんなキャンペーンが成功していたから、ファンの間にはユニークなキャンペーンを受け入れる土壌があったし、僕にとっては前の施策を越えなきゃならないというハードルがあった。期間が短くてタイトな仕事でしたが、とてもやりがいがありましたね。なによりも、篠崎愛さんと打ち合わせをしたり、ナレーション撮りの現場にも一緒に参加したりと、めちゃくちゃ最高だったんです!

永井(笑)。2年ほど前にDONGURIで実施した勉強会の際にも、篠崎愛さんの事例を紹介してもらいましたよね。そこで、宮川さんは「好きなことを仕事にするためには、まず言葉にすること」と話していました。それに感銘を受けて、僕も、個人的に好きなアニメ・ゲームの仕事をするために、どんどんと言葉にしていくようになったんです。

DONGURI 永井大輔

宮川DONGURIの場合、BtoBの案件が多いよね。永井くんが今手掛けているようなアニメ・ゲーム系の案件って、当時はなかったの?

永井ほとんどなかったですね。そこで、いろいろな人に相談したところ、これまで別の案件で一緒に仕事をしていた広告代理店のチームがゲームの仕事をくれたんです。また、直接繋がりのある人だけでなく、営業資料をつくって業界の200社くらいにメールで送りました。

宮川Webから連絡先を調べて売り込んだの?

永井そうです。その結果、いくつかの仕事につながった。宮川さんの言っていたことは正しかったことが証明されたんです!

言われたいのは「さすが運営!」

宮川永井くんが一番最初に手掛けたアニメ・ゲーム系の案件は?

永井「ストリートファイター佐賀」のコラボレーションキャンペーンですね。佐賀県の地方創生プロジェクトの一環として行われたこのキャンペーンでは、作中に登場する「サガット」というキャラクターと「佐賀」のネーミングをかけてストリートファイターとのコラボグッズやコラボショップなどを展開していました。このサイトの制作に携わったのが一番最初です。

ストリートファイター佐賀 コラボレーションサイト

永井ただ、それまで僕が好きだったゲームは、ファイナルファンタジーなどのRPGが多く、格闘ゲームはほとんどやったことがなかった。そこで、当時発売したばかりのミニスーパーファミコンを購入してプレイしてみたんですが、始めは波動拳すら出せず、最初の敵にもボロ負け(笑)。やり込んでいくうちに、なんとかラスボスまでは倒せるようになりました。

宮川ベガまで倒せるようになったんだ!

永井はい。ストリートファイターシリーズは世界中にファンがいるし、そんなファンに対して失礼になることはできません。実際にゲームをプレイしていくことによって、ゲームやキャラクターの魅力も理解できるようになっていきました。Webに実装した部分で言えば、ストリートファイターでは、各対戦相手と格闘する間に車を破壊するようなボーナスステージが設定されています。これがおもしろくて、Webにも隠しステージをつくったんです。

ストリートファイター佐賀のボーナスステージ

宮川あのキャンペーンサイトはレベルが異常に高かったよね。スマホの場合、普通縦向きでスクロールする構成だけど、ゲームは横向きでプレイするから、サイトも横向きでつくられていた。ただ、それってプログラム的には結構面倒くさいよね?

永井とても面倒くさいです。

宮川それに、キャラの操作性やキャラクターの喋り方など、ストリートファイターの世界観が的確に実装されていた。あまりにすごくて……そっと閉じました。

永井(笑)。再現性は特にこだわりましたね。Webサイトでも、実際のゲームを1フレームずつ確認しながらつくったんです。

宮川アイデアもおもしろいし、クラフトとしてのレベルも高い。きっと、永井くんだけでなく、他のメンバーも楽しく企画して作ったんだろうな、という多幸感がWebサイトから溢れていました。「ここまでこだわってるんだ!」という部分が満載だと、そこに、作り手の多幸感を感じるよね。

永井宮川さんと一緒に手掛けた案件で言えば、僕がデザインを担当した映画『天気の子』とミサワホームとのキャンペーンサイトも多幸感に溢れた仕事でしたよね。チームのみんな新海誠作品が好きだったし、事前に用意された資料もすごく充実していて、制作がしやすかった。

天気の子×ミサワホーム キャンペーンサイト

宮川そうだね。もともとのきっかけは、僕に案件の話が来ていて、デザイナーをどうしようと思ったところ、新海誠が好きな永井くんが浮かんだ。もちろん、クオリティの高さに信頼がある前提ですが、何よりも「この仕事は絶対喜ぶはず!」と思ったから永井くんにお願いしたんです。

永井公開前にVコンテ(動画版の絵コンテ)を見せてもらい、細かなストーリーを把握することができたし、広告としてこのコラボを伝えるモチベーションも上がった。そして、書体、色味、余白など、デザインの細かな部分で、作品の空気感を徹底的に作り込んでいったんです。
細部までこだわるためには、まず、作品が伝えたいことやその空気感をしっかりと理解することが大切ですよね。そのためには、作品に何回も触れ、作品の魅力を知る必要がある。それをもとに、デザイナーであれば自分がこれまで培ってきたデザインの知識を結集させ、最適な形でプロダクトに落とし込んでいくんです。

宮川僕がやらせてもらっている音楽系の案件の場合、アーティストが培ってきたコンテクストも重要になります。アーティストにはコンテクストがあり、新曲やベストアルバムといったプロモーションを行っている。だから、コミュニケーションを考える上でも、そんなコンテクストを踏まえなければならない。
今年、加藤ミリヤさんの15周年ベストアルバム『M BEST Ⅱ』のキャンペーンに携わりました。彼女は僕と同い年なんですが、彼女がデビューした当時は僕もまだ高校生だった。その当時、高校生の間では「歌詞画」と呼ばれる歌詞を載せた画像を、ガラケーの待ち受けにするのが流行していたんです。中でも、倖田來未、加藤ミリヤ、大塚愛といったアーティストの曲の歌詞画が流行ってたよね。

永井懐かしい! 当時はみんな作っていましたね。

宮川このベストアルバムのプロモーションにあたって、当時は聞いていたけれども、今は離れてしまったファンにも届いてほしかった。そこで、アルバム全曲トレーラーを動画で作らずに、Instagram Storiesのフィルター機能を使って、当時の歌詞画をオマージュしたフィルターを全31曲作ったんです。

加藤ミリヤの15周年ベストアルバムのキャンペーン

宮川その結果、現役のファンだけでなく、ファンを離れてしまった人にもとても喜んでもらえた。改めて、今やるべき意味のあるプロモーションになりました。

永井ファンが触れてるのは、個別の作品だけでなくコンテクスト全体ですよね。

宮川そう。逆に言えばコンテクストを無視した施策はファンから受け入れられないと思う。以前、あるアイドルグループを起用したキャンペーンで、全くこのグループの持っているコンテクストにそぐわないトーン&マナーのプロモーションが展開されていました。個人的に、そのアイドルグループが好きだったこともあり、これは「わかってないやつ」が考えているキャンペーンだな……と見抜いた。ファンとしては、そんなプロモーションはとてもムカつくでしょ?

永井わかります。僕自身もオタクだからこそ、ファンにがっかりされるような仕事はやりたくない。けど、残念なことに、世の中には「わかってない」仕事も少なくないですよね。そういう仕事を世の中から減らして、ファンの悲しみを減らしたいっていうのが、僕が仕事をする上で大きなモチベーションになっています。

宮川せっかく仕事をするなら、コンテクストを踏まえることで、ファンから「さすが運営!」と言われる仕事をしたいよね。

永井僕の場合、アニメ・ゲームの仕事をするようになってから、一般的な企業のコーポレートサイトを作る際にもコンテクストの重要性に目を向けるようになりました。普通の会社のWebサイトだからといって、会社の雰囲気が分かるだけでは十分じゃない。会社が持っている歴史や社員の想いといったコンテクストを表現することで、より深みのあるサイトとなるんです。

そろそろWebに飽きてきた……

永井エンタメ系の仕事を手掛けるようになってから、宮川さんの中で仕事に対するスタンスは変わりましたか?

宮川僕の場合、最近は企画から携わる場合が多く、Webに落とさなくていいという選択を意識するようになったのは大きな変化かもしれない。Webサイトを作るのではなく、インスタも使うし、紙媒体のほうがいい場合もある。音源を売る、ブランド価値を上げるといった目的に対して、MVにインタラクティブな仕掛けを入れることや渋谷に屋外広告を張り出してギミックを加えるという回答もあり得るなと。あくまでも、アーティストのコンテクストやキャンペーンの目的に沿っていることが第一だよね。

永井それは、宮川さん自身がWebに飽きてきたということも関係ありますか?

宮川そうだね。2〜3年くらい前から、自分がディベロッパーとしてできることの範囲が見えてきた。今いるレベルから、これ以上スキルを積み上げていくには多くの時間を費やさなければならない。けど、僕の場合、自分よりできるディベロッパーを何人も知っているから、その人をプロジェクトに巻き込めばいい。そこで、自分としてはWebを突き詰めることではなくプランニングなどの工程にシフトしています。

永井ディベロッパーとしてある程度スキルを積んでいくと、次に行くためにはWebの知識だけではなく、数学や3Dを勉強しなければけないという局面が出てきますよね。僕も、それに一時期悩みました。そこで、宮川さんはプランナーとしてのスキルを上げているし、僕の場合はデザインのスキルを上げることを選んだんです。

宮川それって、ゲームに例えば、パワプロ(実況パワフルプロ野球)の選手育成モードでパワーをSまで上げるのか、それともパワーはAでいいから肩や守備を上げるのか、というようなことだよね。

永井わかりやすい(笑)。

宮川高度なテクノロジーを使いこなせても、それがアウトプットとして優れているかは別。Webのアニメーションであれば、動きを生み出すスキルだけでなく、その動きが気持ちいいかというセンスの部分も問われてきます。僕の場合は、テクノロジーを突き詰めることではなく、センスを磨くことに力を割き、別のクオリティの仕事をすることができるようにしているんです。

永井そろそろ、対談の締めとして、今後手掛けたい案件を言葉にしていきましょうか。

宮川広瀬すずやガッキー(新垣結衣)との仕事がしたい! 3年くらい前からずっと言葉にしているんだけど、いまだに実現してない!

永井ピンポイント過ぎますよ(笑)。

宮川言葉にする範囲が狭すぎるのもダメみたいだね(笑)。ただ今後、Webからどんどん離れていきたいと考えているかな。今は、ミュージックビデオやショートフィルムなど、映像の仕事を増やすようにしている。僕の場合、映像を監督するというよりも、スクリプトを書いたり、戦略を考えたりといった、プランニングの方向で映像を作りたいですね。

永井僕も、映像については関心があります。これまで、個人的にも音楽やイラストなどをつくってきたんですが、自分が持っているスキルを増やすためにも、動画も撮れるようになってバリューを発揮したい。DONGURIでは、2020年の2月からミミクリデザインと業務提携しているんですが、通常業務と並行して、彼らが行っているワークショップの撮影・編集をしています。
もう一つ、手掛けたい案件は、アニメ・ゲームのブランディングに関わる仕事。これまではキャンペーンやコラボサイトを手掛けることが多かったんですが、もっとゲームそのものの魅力や世界観を紹介する仕事をしていきたいですね。

宮川いま、4歳と0歳の子供を育てているのですが、子供ができたことによって、ますます好きなことを仕事にするという意識が強くなってきました。子供がいることで、独身時代とは異なり、仕事をする時間は限られているという現実に直面します。自分の場合、好きなのはものを作ることだし、そのなかでもエンタメ系のものづくりが好き。限られた仕事の時間を有効に使っていくためにも、積極的に言葉にしながら、好きな仕事に取り組んでいきたいと思います。


宮川 涼(monopo)
コミュニケーション設計を軸に、Webサイト、インタラクティブコンテンツ、インスタレーション、映像、OOHなどアウトプットの形は様々。 インサイトをくすぐる企画や、日常にあるものをハックする企画が得意。 プロジェクトに合わせ企画から、コピーライティング、アートディレクション、開発まで行う。
https://r-miyakawa.com/

WRITTER
萩原雄太
PHOTOGRAPHER
五味利浩(DONGURI)
  • 永井大輔

    学生時代に出場した第47回および第48回技能五輪全国大会ウェブデザイン職種部門において2年連続で金賞を獲得。現在は「歌って踊れる」をモットーに、ロジカルとエモーショナルを両立させたクリエイティブを制作している。

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